アニメーション作画スタジオ:スタジオ・ライブ

第一回作画談義 その8

吉田:(スタジオ・)ライブだとさ、女性の原画マンさん多いじゃん。俺福士さんが原画さんで入ってくれた話数を(作監で)持ったときがあって、女の子が男の子の隣に座ってて、男の子肩に頭を預けるっていうカットがあったとき、髪の毛の載り方を延々と凝っててね。これは男にはこの感性はないって思って。で、ほかの女性アニメーターに「いやー、福士さんの髪の毛の描き方すごかったんですよ」っていったら、「え、だって男に描けるわけないじゃん」って言われて。そっかー!って。

:えー、なんで。男の人にない感性なんですか?

吉田:いや、髪の毛に関する興味は全然女性のほうがある。

石井:いや、あるにはあると思いますけどね。それこそ萌えキャラとか好きな人とかはむしろ女性よりも女の子がかわいいやつとか、あるとおもいますよ。

吉田:うん、でもかわいいじゃないよね。女性の髪の毛に対する愛ってのは女性じゃないと描けないというか。なんか、美しい髪が好きっていう感じは女性のほうが。その髪の毛を使って可愛い子を描こうっていうのは男でもできるけど。よっぽどねえ。オネエの要素がないとね。

:オネエ・・・(笑)

吉田:髪をいじるとかっていうしぐさを綺麗に描くのはあんまり男の人にはない属性だね。

:面白いですね。性別的なものってやっぱりあるんですかね。

吉田:あるあるある。

:だってティーカップをカチャッて置くとかさ、男はあんまり興味ないよね。

稲垣:僕は結構そういうところ好きですけどね。

吉田:あ、ごめんなさい!(笑)

:ガッキー(稲垣)って乙女だよね(笑)

(一同笑)

吉田:そこは上品っていう表現にならないの?(笑)

稲垣:だから、多分逆にアクションが好きじゃないんですよね。はったりをきかすことができないので。

佐野:あー、真逆だね!

稲垣:逆にリアルだったら想像してるのは楽しいんですけど。いや、好きって言うのよりただイメージしやすいってだけの話だと思うんですけどね。人間の手の動きとかって、上手く描けるかどうかは別として、人間がそこにいるかのようにそれを想像することはできるんですけど、逆にかっこいいポーズをガチっととってるっていう生身の人間をぼくはちょっと想像できないので。テレビとかでそういうのを小さいころから観てないと・・・

:ん?何いってんのか分かんないんだけど・・・どういうこと?

稲垣:えーと、だから、自分の中にイメージしやすいもののほうが断然描きやすいでしょ。僕の場合はリアルなものの方がイメージはしやすい。多分自分ができるかどうかみたいな・・・。

神志那:まあ、逆なんだよね。

:ああ、え、そんなに真逆ですか?

石井:真逆ですよ。

佐野:渚さんちょっとちゃんと話頭入ってきてる?

:うーん・・・ちょっとね。私ほんとに素面でこういう話したいんだけど、いつも飲んでるからさ。次の日忘れてるんだよね。こういうふうに毎回録っといて欲しいもん(笑)

石井:や、やめたほうがいい!録っておくと証拠残っちゃうから(笑)

:あ、そうか。後悔すんのかなぁ・・・。

吉田:私死んだほうがいいみたいになっちゃって(笑)

:でもすごいためになるいい話聞いてるのに、次の日覚えてないんだよ。なんかむなしくない?

吉田:大丈夫だよ!作監(修正)の内容だって覚えてないんだから(笑)

:でもガッキーの要素が欲しくてしょうがない、私。なんでそんなに繊細なのって。

佐野:俺も繊細さは欲しいよ。

稲垣:でもだから、その、勢いはないんですよね。

石井:分かります、それは。結局のところ、そっちのほうのバランスを求めちゃうことが自分もあるんですけど、そうすると勢いが死んじゃってて。で、そういうのの隣で勢いがある絵を描かれるとすごい悔しいというか。もうちょっとその、構図っていうのを感覚的に?構図ってこうだっていう考え方じゃなくて、描いた絵がちゃんと構図になってるっていうふうな人がうらやましいっていう。だから、まず第一段階に構図とはっていうのがありながら絵を描きはじめると結構時間がかかっちゃったりとかしますよ。

佐野:構図ってその・・・レイアウトでのフレーミングとかそういう話ですか?

石井:フレームもそうだし、位置関係とかパースのどうのこうのとか。でもそれできるっていうのは日常芝居を描く上では必要だったりとかするので、だからそれこそそういうのを勢いで描いちゃうと描けない部分というがそっちの方面。だからその人たちが悪いわけじゃなくて、やっぱりそういう人たちにしか描けない絵っていうのもやっぱりあったりとかするので。だからそれを伸ばしていけばそれはそれで使いどころはちゃんとひとつの作品の中にはあったりとかすると思うんですよ。

:勢いで描く人って、上達していけばこう、今までは4枚しかかけなかったけど、上達してって8枚になって10枚になって20枚になって・・・増えていくんですかね?

佐野:ん?ラフ原の枚数が増えればいいみたいなこと?

:そう、気付く動きが増えていくのかなぁって。

佐野:でも、なんか・・・どうなんだろうなぁ。

:なんか気付きたい動きがいっぱいあるけどよう分からんみたいな感じでよく描いてるから(笑)

佐野:あの、なんか、この絵を入れとけばOKみたいなことが分かってくると余計な原画を描かなくて済むから。なんていうの、たくさん原画があればいい動きになるかっていうとそういう訳でもない、と思う。

石井:でも、変な話、ばりばり動く人の場合はそれこそ全原画みたいな状態の人もいるし。それこそ(本当は)動画まで描きたいけど清書は無理、みたいな人とかがラフ原もばーっといっぱい描いちゃうみたいな。だけど渚さんはそこまでそっちのほうを目指してるっていう・・・訳ではない・・・?

:私何にも目指してないっす(笑)

石井:(笑)まあ、やりたいことやってけば、やりたいことやってけばいいんすよ!(笑)

吉田:渚さんは、動きのロジックを分解して原画を描くって言うよりも、一杯絵が描きたいんだよね?

:一杯絵が描きたい・・・うん、なんか多分そうだと思う、一杯絵が・・・よくわかんないっす。

石井:それこそ、いっぱいレイアウトを一杯描けばいいんすよ(笑)

:もう・・・なげやり(笑)

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神志那:じゃあ、もういいの?稲垣は?これはやっといたからよかったなっていうのは?

稲垣:僕は、そういう意味ではすごいつまんないんですけど、普通にパースと、筋肉の勉強はしといてよかったと思いましたけどね。

神志那:筋肉の勉強はしたの?

稲垣:しましたね。それがためになってるかどうかは別として、一応知識として入ってるだけでも。芦田さんが、絵の半分以上は知識だみたいに言ってたことがあって。

神志那:うん、知識だね。

稲垣:それは僕、すごく心に残ってたし、描けるかどうかは別として、存在してるかどうかを知ってるだけでもなんか、ふっとあれあったな、て気付けるっていうんですかね。なんかものを描いてるときのディティールが抜け落ちるかどうかってそれが存在してるかどうかを知ってるかってことが結構重要だと思うんですよね。なんとなく観念的に描いてるといっぱい落ちちゃってるものが、そこになんか意味があると分かってられたら覚えてられるとか。筋肉の勉強とかパースの勉強も、それが存在してるって知ってるだけでもちょっとは間違えにくくなるっていうのか。例えば同じ平面状に同一の身長の人がいたら、それこそアイラインが必ず同じところ通るみたいなのは、結構レイアウト描いてるときにしてない。意図的にしてないんだとしたらいいんですけど、単純になんとなく描いててそうしてないってときもあるじゃないですか。そういう間違いが減るっていうのは、知識として覚えとくだけでもいいのかなって。それをただ知らないだけで間違ってる人っていうのも結構いると思うので。

石井:知らないよりは知ってたほうがいいですよね。

稲垣:だからその、なんていうか確かに人と話したりとかそういうのもすごい重要だと思うんですけど、どうせなら(時間のあるうちに)ちょっとめんどくさい事に時間使っといたほうが、その後仕事になったときになんかめんどくさいからまあいいや、やんなくていいや、みたいなふうに思っちゃってどんどん後回しにしちゃうようなことを、やっといてよかったなとは思います。逆にそのときやらなかった手の筋肉とかは、ちょっと自信がないんですよね。実際の内部の構造がどうなってるのかとかそういうのを、確信もってかけないというかね。そういう部分では勉強しといてよかったかなって思うけど、すごいつまんない、つまんない話ですね。

:いやでも、すごい大事な気がする。ガッキーの性格が欲しいもん。私。

神志那:それ渚じゃなくなるからやめといたほうがいいよ(笑)

石井:確かに確信もって描けるっていうのの強みはありますよね。

稲垣:いや、多分感覚的なのが強い人っていうのは自分の見たものだけで確信を持って描けるんだと思うんですけど、僕はそういう意味で言うと、補助的な知識を色々いれることによってやっと確信を得るっていうタイプなので。結構勉強してからじゃないと自分に自信がないって言うんですかね。だから性格によると思うんです。逆に後付の知識を入れることで自分の感覚が捻じ曲げられるのがいやな人っていうのもいるし。そういう人は取り入れたときにすごくバランスが崩れるのをすごく嫌がるっていうんですかね。

(ここで石井は所用により退席)

吉田:ガッキーの直接のフォローになりすぎてあれなんだけど、吉松さんが斜め後ろで仕事してるとね、ハンターが始まってからなのに吉松さんが、すごく分かりやすい筋肉の解説の本が出てて、それを買ってきてみてたよ。だから、みて描いてる。今でも。吉松さんが。

稲垣:やっぱそんなもんなんですかね。

:常に常にな感じなんですかねー?

吉田:常にかは分からないけど、難しい腕の角度とか描くときは見て描いてることはあるなぁっていう。

稲垣:それは確かに、そんなんでもいいのかなっていったら変ですけど(笑)、僕もなかなか覚えられないので。

神志那:まあそんな、知識はその都度でいいと思うよ。いっぺんにいれなくても。

稲垣:まあ、確かに結局入れても使えないんですよね。ほとんどはね。ただ、いまアニメーターになって4年ぐらいたって、ようやくそのときのばらばらになった知識が自分の中に考えなくても出てくるようになるっていうんですかね。それはやっぱりあのとき入れといてよかったかな、と思うっていうんですかね。そのとき勉強したからってすぐ役に立つわけじゃないですけど、なんか僕はだから時間があったらそういうのを覚えといたほうが、ひょっとしたら数年後にそういうのがポコッと出てくるかもしれないな、ぐらいの感覚っていうんですかね。

:すっごい遅れて、あ、これかぁって分かるときあったりするもんね。私はなんか先輩とかからいっぱい注意されたことが、すっごいあとになって「あ、これのこと先輩言ってたんだ・・・」みたいな。私あんまし自分から勉強してないから人から言われたことが言われた当初は分かんなくて。で、何年かたって、「あ、これのことか。今やっと分かったぜ・・・」みたいな。

吉田:それがあるんだったら言ってていいね。こっちも。それもないのに言ってるとすごい一方的に殴ってるみたいな気分になって悪いけど。

:いま酔ってるんで全然大丈夫ですよ(笑)痛くもかゆくもない(笑)

稲垣:7割がた落ちてますからね。耳に入ってないですけど、みたいな(笑)

:なるべく素面のときに言って欲しいけど(笑)

吉田:ライブでもいうじゃん。ライブでも隣で言ったら「きゃーっ!」て言うじゃん。しかも何で今そんなこと言うんですかっとかって言うことあるじゃん。

:あるある。

吉田:「描いてるのに」とか怒ってんのかも知れないけど(笑)

:そうそう、もう何枚も原画描いちゃったよみたいなときに吉田さんに言われて。もぉー!みたいな。書き直さないからね!と思いながら(笑)

(一同笑)

吉田:すごい度胸(笑)すごい度胸(笑)

:そうそう、描き直さなきゃなとも思うけど、まあいいか、次頑張るわ、みたいになっちゃうこともある、みたいなね。でもまあ、私はとにかくカットとっても自然に身につくまで待とう~みたいな感じで、もういいや、と思って。だってあんましほんとに全然考えらんないんですもん。深くね。ガッキーみたいにさ、土台をしっかりつくるぞ、みたいな感じでさ。

稲垣:いや、でもだからね、それは結構そういう意味で言うとね、自分の観察力に自信がないの。なんかこう、よく観察力のある人と一緒に歩いてると、同じところ歩いてるはずなのに、気付いてる量が全然違うんだよ。なんかこう、あそこにあれあったよねとか言われても、そんなもの全然気付かなかったけど、みたいなことが多いのね。だから、見てるようで見てないというか、抜け落ちちゃう部分がいっぱいあるので、だから逆に自分で意識してないといけないのね、結構。だから、そのかわり色んな情報をいっぱいくっつけるのよ。ものを覚えるためにね。一見関係ない、ここにこれがついてるのは実はこうしやすくするためにこれが付いてんだよ、みたいなどうでもいい知識をいっぱいくっつけて、覚えるみたいなさ(笑)

:いやなんか面白いなぁ、と(笑)

稲垣:いや、なんか面白いというかすんげえめんどくさいのよ。それね。そうしないと覚えないんだなって言うのが分かったから。

:がっきーすげえと思ったら笑えてきちゃった(笑)笑ってないけど(笑)

吉田:笑ってるじゃん!

:でもすごいなあと思って。それが欲しいなぁと思ったけど・・・。

稲垣:いや、だから観察力があれば別にそんな必要ないんじゃないかなと思うけどね。

:観察力か・・・自信ないぜ(笑)

神志那:いやだから、結局ね、思ってるそれぞれのものって違うの。例えば、夕日の中を、カップルが手をつないで走ってくるって言うワンカットの絵があったときに、これを見た時に何を感じるか人それぞれ違うのよ。例えば色が綺麗だとか、走ってる二人の表情がきゅーんときたとか、この構図がかっこいいっていうのは、もう十人十色なのよ。だからその、感じたことを自分が持ってればいいの。それぞれが。感じてることは違うから。人の感じたことをふーん、でいいんですよ。この人は、構図がすごくカッコイイと思ったっていう場合は、それをへえーでいいの。これが格好いいのかーでいいの。自分が感じることが一番大事なんすよ。渚は渚で表情がすごくよかったんだよね、あのシーンっていったときは、それを全部吸収していけばいいの。無理して人がいいと思うことを、さっきの話に戻るけどね。それ無理して受け取る必要はないの。それ(自分の得た感覚)を突き詰めていけばいいの、最終的にはね。だから無理なんだよ。100%のものを求める必要は全くないの。それを逃さない必要がある。これ俺まとめて最後に言いたいんだけど、これから目指す人に。自分がふっ!と感じたことを逃さないで欲しいのね。見た瞬間に「あ、いまのカッコよかった!」って思ったらそれをとっておいて欲しいんです。

:あー!面白いねー!

神志那:普通の人はね、それをスーッて流しちゃうの。ごくごく一般の人は。だけど僕らみたいな、アニメーターを目指したいって人はだいたい、あの格好がかっこいい、あの表情がよかった、あの構図がよかった、なんかしらそこでキュッと胸をつかまれるのね。だからこそ、そこを目指して、こういう仕事つきたいなって思うから。だから俺はそれを大事にして欲しいなっていうのを最後に言いたいのね。

:うーん。まとめですか。

神志那:まとめまとめ。

:え、じゃあもう飲み会終わりですか?

神志那:えー、いや飲み会は続けてもいいけど(笑)そろそろ3時間たってるから。なんか、まぁ、いいやってゆうふうにやらないで欲しいのね。感覚を。

:私まあいいやってやってますかね?大丈夫ですかね?

神志那:でもほら、なんかやってるじゃん!夜な夜な(笑)

:夜な夜なって言わないでよ!

神志那:それが、それが大事なことなんだって。

:あー、うー、そっか、続けてればいいってことですか?

神志那:そう、自分がキュンッとくるものを、突き詰めとけばいいのよ。

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